今週の書評で気になった本 5月第4週

5月25日(土)毎日新聞書評欄より


書名:地域医療の経済学

著者:井伊雅子

出版社:慶應義塾大学出版会

価格:3,300円(税込)

ISBN:978-4-7664-2958-9

幸いなことに、日ごろあまり病院へ通う生活を送っていない。時折行くのは歯医者さんくらいなもので、時々身体にのっぴきならない異常が発生した時に限って、病院へ向かう気力が発生する(大抵そういうときは何をする気力も起こり難い状況なので輪にかけてしんどい)。

先日ちょっと腰をやってしまったとき、果たしてどこの病院に行けばいいのかわからなかった。今の居住区の近くで整形外科にお世話になったことがなかったからだ。比較的急を要する上セカンドオピニオンなどと言っていることもできなかった中、苦渋の選択で頼った先は地図サイトに掲載された、誰とも知れない人による口コミだった。結果を言えば、その口コミに思考を右往左往させられた挙句「職場に近くて利便的で今日やってるとこ」という条件に適った整形外科に行き、骨に異常はないことに太鼓判を押してもらいリハビリを行い、あっという間に腰は良くなった。


とはいえ、なぜ口コミサイトに縋る羽目になったのか。振り返ってみても、何とも言えない情けなさを自分にも感じる。元より医療に係る情報を仕入れるのが下手というのもある(普段アクセスしない方面に対しては誰しもそういう傾向にあると思う。でも医療やぞという気持ちはある)。

ただ、ならば果たしていわゆる「公的機関が発表する医療の質に関する情報」は存在するのかと言えば、本書によると今の日本においてそれはどうやら望み難い情報なのだそうだ。

先だっての(結局今なおずるずると強制的共生を送っている気もする)コロナ禍においても、治療ができる医療機関が極めて少なかったとある。それは設備面のみならず、医療者側の知識にも課題があったと指摘されている。それらへの信頼の低下は同時にネット上に流布する根拠の不確かな"医療"の情報の氾濫とそれらへの傾倒という負の流れを加速させる。


自分自身、うっすらと「日本の医療水準は高いのでは」と無根拠に信望していた節はあるけれど、思い返すと「なぜそんな、治療にもならない治療に多大なお金を払うのか」といった感情を周囲の人間に抱いたことがある。それも一度や二度ならず、もっともっと。そこには確かな医療リテラシーが備わっている気配はない。

とはいえ、この手の話は個々人の一種信仰とも言える思考に大きく依ってくる話でもあるので、単に医療機関が現状の問題を解決する方向に舵を切ったとて即座に改善する話ではないとは思う。

でも一つの寄る辺として思いつくのが「ネット上の口コミ」という、シュミのモン買うような感覚で医療を選んでしまう事態が少しでも良くなることは痛切に願わずにはいられない。

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